特定領域研究「グライコミクス」の発足に際して
領域代表者:名古屋大学大学院医学系研究科 古川鋼一
平成14年度から、文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「糖鎖によるタンパク質と分子複合体の機能調節」(通称グライコミクス)が発足することになりました。本研究班の発足にあたり、研究班の概要と研究プロジェクトの主旨などにつき御紹介致します。
ヒトをはじめ多くの生物種のゲノム情報が明らかにされ、ポストゲノム(シークエンス)研究として、プロテオミクス研究と共に、糖鎖機能の解明の重要性がこれまでになく広く認識されつつあります。タンパク質や脂質などの生体分子が実際に機能する場合に、糖鎖付加を受けた複合糖質として多様な機能を果たしており、発生、分化、癌、感染、炎症、老化、変性、生殖、再生などの多くの生物現象において、糖鎖が極めて重要な役割をになっていることが示されてきました。このような生物科学の展開時期に本研究プロジェクトが認められ、サポートが受けられることは、糖鎖科学研究者にとって大きな喜びであり、励ましであります。また一方で、生物科学の進歩にとって糖鎖機能の解明が必須の要因となっており、その期待の表現とも思われます。
最近の糖鎖生物学の進展を支えてきた最大の要因は、糖鎖合成系酵素の遺伝子クローニングの成功であり、これらの遺伝子操作実験によって、明解に糖鎖の役割が示されてきました。細胞糖鎖のリモデリング、糖鎖遺伝子ノックアウトなどによる実験が日常的手法になり、実験計画を考案する上で、今までになかった広範で自在なアプローチが可能になりつつあります。確かに、糖鎖合成系酵素の遺伝子クローニング競争において、日本人の貢献度は極めて高く(クローニングの約半分は日本人による)、日本の糖鎖研究の伝統的なレベルの高さを示すものと思われます。今、遺伝子クローニングの成果を生かして糖鎖機能の統合的な解明を目指すに当たり、いくつかのハードルを越えていく必要がありますが、最終的に大切なことは、生物科学者に普遍的に認識される糖鎖の役割を明らかにすること、であると考えられます。遺伝子クローニング以降の糖鎖生物学の進展にとって、自然科学全般の基盤の確かさが問題になりますが、その点で欧米に比べて不十分であることはやむを得ないかも知れません。今後の基本的な姿勢としては、糖鎖機能の解析に終わらせないで、複合糖質分子の機能解析をめざすこと、そのためには、関連領域の研究者との連携を強固にすること、細胞間相互作用から分子間相互作用の解析に進めること、が必須の課題であると思われます。そのためには、既成概念にとらわれないで自由な発想で伸び伸びと新しい試みに挑戦できる若い研究者のエネルギーが不可欠です。糖鎖研究者という枠にあまりこだわらずに、内に向かっては、ハラハラドキドキの連続になるような研究を目指し、外に向いては、口角泡を飛ばして議論できるような研究の雰囲気を形成するための基盤を、この特定領域研究班が作っていければと思います。
新世紀を迎えて、糖鎖研究の分野ではすでに経済産業省の「糖鎖遺伝子ライブラリー構築」のプロジェクトが進行し、戦略・創造研究のプロジェクトもほとんど同時に発足しました。今後生まれてくるプロジェクトも含めて、これらの糖鎖研究プロジェクトの間での効果的な協力、協同関係を極力推進しつつ、本研究班の一層の発展を目指したいと考えております。研究参加者のみなさんのさらなる御健闘と、関係分野のみなさまの強力な御支援をお願い申し上げます。
お問い合わせ先:
古川鋼一 名古屋大学大学院医科学系研究科生物化学講座
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