糖鎖によるタンパク質と分子複合体の機能調節
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本研究の目的と必要性
 ゲノムプロジェクトの進展により、生命現象の真の理解のために生体の様々な分子と分子間相互作用の解析が、現実的かつ必須の研究課題となってきた。蛋白質や核酸を中心とした研究に加え、直接の遺伝子産物ではない糖および脂質の生体の調節因子としての研究が必要であり、今後ますます重要な位置を占めると思われる。特に最近10年間に、糖蛋白質、糖脂質、プロテオグリカンなどの複合糖質の糖鎖合成酵素遺伝子の単離がほぼ終了し、これらの分子に含まれる糖鎖の生理機能の具体的かつ広範な解析が可能となった。この糖鎖遺伝子解析の劇的な展開と、急速に進展するゲノム科学とが融合して、糖鎖生物学の新たな展開が展望されつつある。遺伝子の直接産物であるタンパク質や分子複合体における複合糖質糖鎖の調節的役割の解明が、ポストゲノム科学の主要な柱として必須の課題となり、様々な生物現象の分子メカニズムの理解にとって不可欠の領域となっていることが認識された。糖鎖の構造的な特性とその生体諸機能における意義の横断的重要性に鑑み、Functional Glycomics と総称すべき研究領域を構築する必要性があると考え、本研究を計画した。
 
 これまでの糖鎖合成遺伝子のクローニングと、細胞および個体レベルにおける遺伝子操作を用いた様々な実験の結果は、糖鎖が発生、分化、増殖、細胞死あるいは癌化などの生命現象の根本過程に深く関わっていることを示した。例えばヘパラン硫酸の硫酸化酵素遺伝子の欠失が腎臓の無形成を招くこと、複合型酸性糖脂質の欠失は精子無形成となること、あるいは糖脂質の合成欠損動物では3胚葉の発達が停止して胎生死に至ること、O型糖鎖のシアル化欠損マウスでは細胞障害性T細胞 (CD8+) がアポトーシスにより消失すること等、その実例は枚挙にいとまがない。一方、CDG (Congenital Disorders of Glycosylation)とよばれる一群の先天性疾患におけるN-型糖鎖合成経路の酵素変異、家族性外骨腫症の原因遺伝子として同定されたヘパラン硫酸糖鎖の合成酵素の変異、Ehlers-Danlos 症候群の早老型患者において同定されたグリコサミノグリカン糖鎖合成酵素の変異、免疫異常患者に検出されたフコース転移酵素の変異など、糖鎖およびその修飾酵素遺伝子の異常に基づくヒトの疾患・病態の存在が続々と明らかになっている。
 
 しかし、これらの糖鎖遺伝子の機能異常がいかに異常表現型を招き、どのように病態をもたらすかはほとんど明らかにされていない。タンパク質の翻訳後修飾の重要なプロセスとして各々の酵素が糖化する標的分子の解析は、大部分が未知であり、またプロテオグリカンや糖脂質に対する糖鎖付加および修飾による糖鎖プロファイルの変化やそれらを包含する分子複合体の機能と構造における意義もほとんど解っていない。
 
 ここにポストゲノム科学の最も重要な研究として、Functional Glycomics の発展が必要不可欠のものとして位置付けられなければならない。それは、あらゆるタンパク質の50% 以上が糖化を受けて機能している事実から、プロテオミクスの具体的な中身は糖鎖の解析なしには達成しえないと考えられる。また、糖脂質やプロテオグリカンの機能解明は、糖鎖機能の解析そのものに他ならない。糖鎖構造の化学的解析、糖鎖遺伝子のクローニング、遺伝子による糖鎖リモデリング、と発展してきた糖鎖生物学研究の21世紀的展開として、分子生物学、糖鎖工学、構造生物学を統合した新研究パラダイムを構築し、糖鎖の分子機能解明をめざす。


本研究では、実際には次の3グループにより研究の効果的進行をはかる。

(1) 糖鎖によるタンパク質の機能調節
(2) 糖鎖による分子複合体の機能調節
(3) 糖鎖異常による疾患の分子機構


 我が国の糖質科学者が糖鎖遺伝子のクローニング全体の半数以上に関与し、これらの遺伝子操作による糖鎖機能の解析と様々な疾患マウスの作成および糖鎖異常に基づく疾患・病態を解明するなど、国際的なレベルにおいて糖鎖生物学の分野を圧倒的にリードしてきた実績の上に立ち、今回の先端的プロジェクトにより一層の進展を目指す。これらの研究成果は、他の研究領域への波及効果が大なることが予想され、ライフサイエンス全体の進展の一大要因を成すものと期待される。

お問い合わせ先: 古川鋼一 名古屋大学大学院医科学系研究科生物化学講座
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